web時刻表とダイヤグラムの関係
家庭用コンピューターが普及する以前は、時刻表は紙媒体で、趣味用ダイヤグラムも手書きが基本であった。その後の家庭用コンピューターの普及を受けて、1990年代に登場したダイヤグラム作成ソフトがWinDIA(ふゆき氏)である。時代は下り、2005年にOudia(win向け)、2006年にCocoDia(Mac向け)が公開、更にスマートフォンの発達とともに2009年にyubiDia(iOS向け)、2016年にAodia(Android向け)、2017年にNetgram(web)が公開された。コンピューターによる趣味用ダイヤグラム作成は、キーボードとマウスによって時刻表を入力する必要がある。ボールペンで手書きをしていた時代に比べると操作内容が増え、その入力をどれだけ簡略化できるかが課題であった。他方で、コンピューターの普及とともにインターネット上に時刻表を公開する鉄道事業者も増えていた。結果として、インターネット上の時刻表をスクレイピングし、得られたデータをダイヤグラムソフトで閲覧するための「スクレイピングツール」も同時に普及していった。
スクレイピングによってダイヤグラムを作成するツールとして、えきから to OuDia(2008年)、Getえきから2(2015年)、トレたび変換(2019年)が存在している。
スクレイピングの是非
web上を巡回して情報を取得するプログラムは「クローラー」「スクレイパー」、その行為は「クロール」「スクレイピング」と呼ばれる。クロールやスクレイピングを行うプログラムとして最も有名なのはGoogle検索である。通販サイトの価格を比較するサイトでも使われている。これらは当然合法である。(詳しくは後述)次に、時刻表をスクレイピングする事を考える。時刻表のスクレイピングも、以下の点から合法であると考えている。
- スクレイピングを行った場合の著作権
- スクレイピングを行った場合の損害
- 運用実績
スクレイピングを行った場合の著作権
- そもそも、時刻表における「時刻」は事実の列記であるため、著作権が無い。
- 時刻表における「表組み/レイアウト」に対してのみ著作権が発生する。
- しかし、『時刻表から「時刻」を抜き出して別のコンテンツとして公開する行為』は利用規約によって禁止されていることがある。
- 一般的なスクレイピングが合法となる根拠として、著作権法第三十条-4が挙げられる。(平成30年以前は四十七条-7)
- 上記の条文内では、webスクレイピングにおいて「情報解析のための複製」が認められている。
- つまり、「情報解析」のためならスクレイピングをしてもよいことになっている。
- webサイトから「時刻」の情報を抜き出し、データの形式を変え、ダイヤグラムとして描画させる行為は「情報解析」にあたるため、合法であると考えている。
著作権法第三十条 著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。(後略)
第三十条の四 著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
一 著作物の録音、録画その他の利用に係る技術の開発又は実用化のための試験の用に供する場合
二 情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。第四十七条の五第一項第二号において同じ。)の用に供する場合
三 前二号に掲げる場合のほか、著作物の表現についての人の知覚による認識を伴うことなく当該著作物を電子計算機による情報処理の過程における利用その他の利用(プログラムの著作物にあつては、当該著作物の電子計算機における実行を除く。)に供する場合
- 以上では「スクレイピング自体の是非」について述べたが、スクレイピングした結果を誰でも見られる場所で公開するのはどうだろうか?
- スクレイピングによって作成されたダイヤグラムを公開することは、時刻表サイトの利用規約によって禁止されていることがある。
- 「時刻」データに著作権は無いが、一般的に言えば、スクレイピングによって得たデータは著作権法第三十条による私的利用の制限を受けることもある。
- 以上より、"スクレイピングした結果を誰でも見られる場所で公開する行為"は違法になる可能性がある。
スクレイピングを行った場合の損害
- 前項で、著作権法においてスクレイビングが合法だと述べたが、別の罪に問われる可能性もある。
- それは、偽計業務妨害罪である。
- スクレイピングツールが相手サーバーのリソースを圧迫し、接続ができない状態になった場合、DoS攻撃とみなされ、偽計業務妨害罪に問われることがある。
- 「webサイトを"落とす"事が目的のDoS攻撃」と「サーバーからコンテンツを読み込むことが目的のスクレイピング」では、そもそも目的が異なるので、動作の挙動も異なる。
- DoS攻撃とみなされる事を避けるため、スクレイピングツールは「1リクエストごとに1秒」の間隔を開けることが大まかな基準として存在する。
- 上記の基準より少ない頻度のリクエストであれば、一般的なスクレイピングツールの挙動であり、偽計業務妨害罪に問われることはないと考えられる。
- 視点を変えて、本来相手側が得られるはずだった広告収入について考えてみる。
- スクレイピングによってwebサイトの閲覧数が低下し、広告収入が低下したなら、相手側に損害を与えたと言えるかもしれない。
- しかし、スクレイピングによって取得する数百ページを、スクレイビングツールが無かった場合には(手作業で)閲覧するだろうか?
- 時刻表サイトの場合、スクレイピングツールが無いなら紙の時刻表を見て手入力するのが一般的である。
- つまり、スクレイピングツール利用者はそもそもwebサイト上の時刻表を閲覧しない。
- よって、時刻表スクレイピングツールを利用することで広告収入が著しく低下することは無いと考えられる。
運用実績
- すでに先行例として、「web時刻表をスクレイピングしてダイヤグラムを描画する」ツールがいくつも運用されている。
- 同様の動作をする自作ツールを公開せずに使っている方も多いだろう。
- これらのツールが違法であったとか、裁判沙汰になったとか、公開停止になったという話は聞かない。
- 上2項で説明した通り、「得られたデータを公開するかどうか」「サーバーに対するリクエストの頻度」さえ気を付ければ、法律に触れることは無いと考えられる。
- よって、現時点では、節度を守った時刻表スクレイピングツールに違法性は無いと考えている。
おわりに
昨日、上で説明したのと同様の時刻表スクレイピングツールを公開したところ、知的財産権の侵害ではないかという質問を受けた。作者である私としては全く違法性を認識していないため、現時点での私の考えをここにまとめた。この記事はあくまで私の認識にすぎないため、間違った記述がある可能性もある。後に違法性があることを発見した場合は、私が公開しているスクレイピングツールを公開停止するつもりである。また、違法ではないにしても、取得元から何かしらの要求があった場合は、公開停止やリクエスト間隔の変更などに対応するつもりである。
(おわり)